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甲府地方裁判所 昭和41年(む)60号 決定 1966年5月25日

被告人 渡辺万男

決  定 <被告人氏名略>

右の者に対する監禁被告事件について、甲府地方裁判所裁判官が昭和四一年五月二〇日になした保釈請求却下決定に対し、弁護人高橋竜彦から準抗告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

一  原裁判を取消す。

二  別紙記載の条件を附して被告人の保釈を許す。

三  保証金を金二〇万円とする。

理由

一  右裁判に対する本件準抗告の申立の趣旨及び理由は、別紙準抗告申立書に記載してあるとおりであるからこれを引用する。

二  本件関係記録によれば、被告人が本件被告事件につき、昭和四一年四月二五日勾留され、同年五月二日起訴されて引続き勾留中のところ、弁護人高橋竜彦から保釈の請求がなされたが、同年五月二〇日甲府地方裁判所裁判官が、刑事訴訟法第八九条第四号に該当するとして保釈請求却下の裁判をしたことが明らかである。

三  そこでまず、本件において刑事訴訟法第八九条第四号に該当する事由が存在するか否かについて検討するに、本件関係記録によれば被告人に対する公訴事実の要旨は別紙記載のとおりであるところ、被告人は共謀の点につき強くこれを否認し、犯罪の実行行為者として起訴されている小俣英一に対しては、右市議会議員であつて市議会内のいずれの会派にも属していなかつた小俣義重を自己が幹部となつている一八会に入会させるかもしくは、その主張に同調させるように説得方を依頼しただけであると述べて自己の刑事責任を否定している。しかしこれに反し、右小俣英一は右の点については被告人が、右小俣義重を一八会に入会させることなどの説得のみならず、右説得が不可能の際は、昭和四一年三月二八日開催される富士吉田市議会に同人が出席できないように当日他所につれだしてくれと依頼した旨の供述等、右事実を窺い得る資料もある。そして被告人の社会的地位と関係人等の地位、交遊関係等諸般の事情を考慮すれば、被告人が自己の刑事責任を免れる為、関係人らと通諜するおそれがあることは否定できず、従つて刑事訴訟法第八九条第四号に「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」に該当することを認めることができ、これと同旨に出た原裁判は、その限度において相当というほかない。

四  次に裁量保釈の許否の余地について本件関係記録により検討する。

まず罪証隠滅のおそれについてであるが、被告人は勾留後接見禁止(昭和四一年五月一六日取消済)の状態で検察官らの取調べをうけたが、この間、前記小俣英一はじめ、渡辺藤男、渡辺等、舟久保精など多数の重要関係人の取調べが行われてその供述調書が作成され、その結果、最早本件の重要な点についての捜査は一応終了したものと認められ、従つて前記のように被告人に罪証を隠滅するおそれがないとはいえないとしても、それは捜査段階に比較すれば起訴も既に終つた現段階においては、被告人の訴訟当事者としての地位も考慮すべきであり、その防禦権を不当に制限することのないよう配慮する必要があると考えられるし、相当額の保証金の負担と別紙記載のとおり遵守すべき指定条件を附することによつても、被告人が今後罪証隠滅のおそれのある行動にでることをある程度制止しうることが予測される事情にあるものと認められる。

更に本件被告人については、その義父が、昭和四一年二月頃より食道癌に犯されて衰弱が続き、現在危険な状態にあり、被害人においても、その看護その他早急に手を尽さなければならない必要があることが認められ、右は一時的な執行停止のみでは不十分であると考えられる。その他被告人が中心となつて経営していた機業の経営事情、被告人の社会的地位、本件事案の性質などを考慮すると、本件は刑事訴訟法第九〇条にいう保釈を許すに「適当と認める」場合であると判断するのを相当とする。

五  よつて本件申立は、右の点において理由があり、これと異つた結論にたつ原裁判は取消すのが相当であり、保釈保証金については、諸般の事情を考慮して金二〇万円を相当と認め主文のとおり決定する。

(裁判官 小河八十次 清水嘉明 須藤繁)

別紙(公訴事実の要旨)<省略>

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